iPhoneの登場から早10年経ち、いつのまにかスマホは世界中の映画やドラマにも当たり前に登場する生活必需品になった。10年前にはまだスマホなんて存在しなかったことを思うと、普及速度の速さが伺える。実はそんなスマホもすんなりと受け入れられたわけではなくて、紆余曲折を乗り越えながら今の地位を築いた。
今回は青春時代をスマホの普及とともに過ごした俺が、年代ごとにスマホを取り巻く市場とユーザーの流れを主観を交えながら解説したい。
この記事の目次(クリックでジャンプ)
2008年 スマホ黎明期
主な出来事
4月 Twitterリリース
7月 iPhone3Gがソフトバンクから発売開始
アメリカで話題になっていたiPhone3Gが日本に上陸した。当時ガラケが主流だった日本では完全に色物扱いで、猿に火、戦後の電子レンジのようなもので、誰一人市場に革命が起きたことに気づいていなかった。発売前にニュースや新聞で取り上げられながらも、ユーザーは様子見が大半だった。
実際iPhone3Gはスマホとしても動きが悪くてアプリも少なくブラウザも使い物にならず、購入者も苦笑い。独占して発売していたソフトバンクもiPodと携帯が一つになったという売り方をしていた。
「世界的ですもんね 乗るしかない このビッグウェーブに」の名台詞で有名なButchさんはこの年から欠かさずiPhoneが発売されるたびに順番待ちしていた。
実はTwitterはこの年からリリースされていたのだから驚きだ。
2009年 iPhone成熟期
主な出来事
7月 iPhone3GSがソフトバンクから発売
7月 ドコモが初のAndroid「HT-03A」を発売
iPhoneは3GSになってついにまともに使えるスマートフォンとして完成。外で快適にブラウジングできることとGoogleMapの登場で便利さが認知され爆発的人気に。この頃のiPhoneはソフトバンクが独占していて、iPhone3Gを使うために次々とソフトバンクへのMNPが発生した。
地味にドコモから日本初のAndroidも発売されていたが、使い物にならず完全に空気だった。
auからはまだスマホの販売はなく、この時点でauとドコモはソフトバンクから2年も遅れを取っていた。
2010年 Android黎明期
主な出来事
4月 ソフトバンク純利益65%増
4月 初代Xperiaがドコモから発売
5月 初代iPadがソフトバンク、家電量販店から販売
6月 初代Android端末IS01がauから発売
7月 iPhone4がソフトバンクから発売
10月 初代Galaxyがドコモから発売
11月 DesireHDがソフトバンクから発売
12月 ドコモが日本初の4GとなるLTE Xiを提供開始
人気が爆発したiPhoneを独占するソフトバンクに対応するため、各社こぞってAndroidスマホを市場に投入。「Android au」や「docomoのXperia」というCMが連日流れ、ソフトバンクはiPhone、auはAndroid、docomoはXperia(これもAndroid)というミスリードが広がった。
一方人気が爆発したiPhone3GSの後継機であるiPhone4が発売され社会現象となる。ソフトバンクは独占していたiPhoneの通信費が一人当たり従来の3倍になることで利益が爆発的に増加し、純利益前年度比65%増を達成。この頃唯一使えるAndroidと密かにブームになっていたDesireHDはiPhoneを独占するソフトバンクから発売されていたため見向きもされなかった。
2011年 キャッシュバック戦争勃発
主な出来事
3月 東日本大震災発生
4月 ソフトバンクが純利益過去最高を達成
6月 LINEリリース
10月 iPhone4Sがソフトバンク・auから発売開始
10月 auからEVO 3Dが発売開始
11月 Amazon Kindle Fire発売
ついにソフトバンクのiPhone独占の牙城が崩れた。auもiPhone4Sを市場に投入し、ソフトバンクへのユーザー流出に歯止めをかけた。2011年はまだ目ぼしいAndroidがなく、ドコモからは引き続きMNP流出が続いた。
一方スマホ契約者が増加することで通信費は跳ね上がり、利益が大幅に増えることがわかったキャリアは、ユーザー獲得のために投資するキャッシュバックを開始。各社で陣取り合戦を行うキャッシュバック戦争が勃発した。中でも、auのEVO 3Dは一台MNPで10万円キャッシュバックを叩き出す伝説を残した。
他方で、東日本大震災の発生によって情報共有のスピードからTwitterが脚光を浴び、Twitterユーザー数が大幅に増加したと同時に、スマホの利便性が改めて認められた。更に東日本大震災を受けて、安否確認の必要性から既読機能がついたSNSアプリLINEがリリースされ、無料通話機能もあって爆発的に普及し、不動の地位を築いた。
2012年 Androidの逆襲
主な出来事
2月 iijから実質日本初のMVNOサービスの提供開始
6月 GalaxyS3がドコモより発売
7月 ソフトバンクがプラチナバンドを提供開始
7月 Nexus7発売
9月 iPhone5がソフトバンク・auより発売
10月 Surfaceがマイクロソフトより発売
世界で最も売れたAndroid端末であるGalaxyS3がドコモから独占販売され、とうとうまともに使えるAndroidスマホが日本市場に投入された。これによりIS04などの糞端末で苦しんでいた多くのAndroidユーザーがこぞってドコモにMNP転入した。
一方、家電量販店ではグーグル公式の格安タブレットNexus7が発売され、コスパの高さから注目を浴びた。
iijからは月最低1000円で使えるMVNOの発売が開始され、3大キャリア以外との契約でモバイルデータ通信できる道が開かれた。ただ、このころのMVNOは低速の128bps固定であったり、バッテリーの減りが異常に早いバッテリードレイン問題があったりなど、まだまだ使い物にならなかった。
AndroidにもiOSにも参入できないマイクロソフトは鳴かず飛ばずのウィンドウズフォンを捨て、タブレットに特化したOSとしてウィンドウズ8を搭載したサーフェイスの発売でモバイル市場への切り込みを試みていた。
2013年 ドコモの逆襲
主な出来事
9月 iPhone5sが3大キャリアから発売
7月 バッテリー3日持ちモデルのAndroidが発売
11月 iPad Air発売
ついにドコモがiPhoneの提供を開始し、iPhoneを求めるユーザーのMNP転出に歯止めがかかった。ドコモのiPhone発売は遅すぎた感があり、この段階でドコモの市場シェアは既に5割から4割まで減少していた。
昨年GalaxyS3が発売された流れから、Android端末も成熟し、次々とまともに使える端末がキャリア各社から発売され、中でもバッテリー3日持ちモデルが目立った。Androidは我慢して使うもの、という時代は終わり、iPhoneと対等な地位まで上り詰めた格好だ。
Appleからはスペックが高く薄型のiPad Airが発売され、これがその後のタブレットの業界標準として市場スペックを引き上げた。
2014年 通信費革命
主な出来事
6月 ドコモがかけ放題プランを提供開始
9月 iPhone6発売
11月 ZenFone 5発売
ドコモが通話料金実質値下げとなる、かけ放題プランを提供開始。日本での通話定額時代の幕開けとなった。auとソフトバンクも2か月遅れで同プランの提供を開始した。
背景にはLINEの普及とその無料通話利用者の急増があり、使われなくなったキャリア通話に再びユーザーを取り戻す狙いがあった。通話定額で基本料金を従来の3倍にし、データ通信料を実質値上げすることにより、LINEの無料通話を苦しめ、キャリア側は通話料を無理やり回収する形だ。
9月には大画面になり大幅にモデルチェンジしたiPhone6が発売され、Androidがシェアを上回る世界市場とは対照的に、iPhone6は日本市場のトップを独走し続けていた。
家電量販店ではZenFoneシリーズ初代となるZenfone5が発売され、格安スマホの存在が認知され始めた。
2015年 政府の介入
主な出来事
5月 ZenFone 2発売
5月 SIMロック解除義務化開始
9月 iPhone6s発売
9月 ドコモがカケホーダイライトプランを提供開始
12月 スマホ普及率が50%を突破
ZenFone5の後継機となるZenFone2の発売が開始。追いかける形で他多数の格安スマホが発売され、ぎりぎり使えるレベルの格安スマホが発売されることでユーザーが敢えてキャリアスマホに拘る必要がなくなった。データ通信プランが増えていたMVNO(格安SIM)の存在もあり、格安スマホと格安SIMで運用する脱キャリア組が発生し始めた。
一方スマホの一人当たり平均利用料は8,000円に到達。由々しき事態と見た安部首相は総務省に対し、各キャリアに価格を下げさせるように指示を出し、その結果、今までより1000円安くなるかけ放題ライトプランの提供を開始した。
この年に初めて個人レベルでのスマートフォン所有率が50%を突破。体感としてはまだ50%?という感じだが、これは日本の過半数を占める高齢者層にまでスマホが浸透してきたことを意味する。
2016年 キャッシュバック戦争終結
主な出来事
2月 キャッシュバック戦争終結
3月 3大キャリアが最高益を更新
6月 P9発売
9月 iPhone7発売
10月 ZenFone3発売
12月 MVNO利用率が14.7%に到達
スマホ利用料はまだまだ高い。政府はこの原因はキャリアのキャッシュバック政策にあり、キャッシュバックがなくなればその資金を利用料の値下げに回すと考えキャッシュバックの禁止を発令。スマホを適正価格で売らせるべく実質0円販売も禁止した。スマホ代を別で払う分、通信料を下げさせる狙いだ。これに対して3大キャリアはキャッシュバックを打ち止め、通信費は据え置くことで、この年に幹並過去最高益を更新した。
2016年はMVNOによる格安SIMが活発化しており、それに応えるべくZenFone3やP9など、キャリアスマホにも負けない性能やバッテリー持続時間の長い完成された格安スマホが多数発売された。MVNOの利用率は14.7%に到達し、20人に3人は格安スマホを利用している計算だ。2014年の格安SIM利用率1.4%と比べると、キャリア離れは10倍も進んだ。
2017年 格安スマホ戦国時代
主な出来事
3月 Moto G5 Plus発売
6月 P10発売
8月 ZenFone4発表
8月 ソフトバンク日本2社目の純利益1兆円超え
ASUSのZenFoneシリーズとHUAWEIのPシリーズがトップ争いをするなか、多数のメーカーが参入し、現行の格安スマホは40種類を突破。安いだけでなく性能のいい格安スマホがしのぎを削る格安スマホ戦国時代に突入した。もはや性能でキャリアスマホにこだわる必要はなく、MVNOで月額通信費も大幅に削減できる完全自由化が実現した。
所感
常にiPhoneを目指して
こうしてみると日本のスマホ市場は激動の10年を送りながらも確実にユーザーにとっていい方向に進んできた。スマホの歴史はAppleのiPhoneから始まり、各社iPhoneを目標に、追いつけ追い越せで急速に進化を遂げてきた。世界中にスマホを浸透させ、情報共有速度を劇的に早くする立役者となったiPhoneの貢献度は計り知れない。
東日本大震災
一方東日本大震災によって転機を迎えた日本のスマホ市場は、TwitterとLINEの存在により、あったら便利ではなく、災害対策として必須、と認識が変わることで、急速な普及に拍車がかかったように感じる。
キャリア vs 総務省
キャリアはスマホの登場によって劇的に伸びた。2016年の日本企業純利益ランキングトップ10には3大キャリア全てが名を連ねている。自動車産業に並んで、今最もアツいのが通信事業だ。市場を独占する3大キャリアが半談合で利益を確保するなか、政府の介入によって一歩ずつ着実に自由化はすすみ、MVNO提供会社は100社を突破した。ユーザーにとっての選択肢は増え続けている。
キャリアの値下げは来る
SIMフリーが義務化され、格安SIMが100種類を超え、格安スマホも成熟した今の日本は、ユーザーにとって過去最高の市場だ。キャッシュバックがなくなった今、キャリア側が値下げを断る理由はなくなり、値下げ圧力はどんどん強くなるはずだ。今後更に価格の安い格安SIMにユーザーが流出することで3大キャリアは焦り、遠くない未来に値下げは実現し、日本市場は更に良いモノになるだろう。